殴りかかってくるアンドレスの手首を捕えながら、アパサはニヤリと笑う。
「見かけよりは、力は、少しはあるようだな」
だが、次の瞬間には相手の腕を引くと、あまりにもあっさりと十字に固めてしまった。
腕を十字に固められて、アンドレスは痛みに歯をくいしばったまま、それでも決して降参の合図を発しない。
しまいにはアパサの方が呆れて、彼の腕を放した。
「こんなところで腕を折られたら、世話をするこっちが厄介だ」
アパサが吐き捨てるように言い終わるか否かという間にも、またアンドレスが猛然と飛びかかる。
そのまま、そんな取っ組み合いが幾度繰り返されただろうか。
気づくと、日はとっぷり暮れている。
乾いたこの土地の、晩春の夜は冷え込みがはやい。
「寒くなってきやがった…」
さすがに汗と泥まみれになったアパサは、草の上に座り込んだまま澄んだ星空を見上げて呟いた。
それから、自分の横ですっかり地面の上に伸びてしまっている若僧の方を見やった。
アンドレスは、汗と泥にまみれた肌に、ところどころ血を滲ませたまま、意識を失っている。
アパサはピュッと口笛を吹いて、闇の中から部下の者を数名呼び寄せた。
「この手のかかるお坊ちゃんを運んでやってくれ」
そして、自らも少々足をひきずりながら、屋敷へと戻っていった。
それから2~3時間が過ぎた頃だろうか。
アパサの屋敷の中に彼のために用意された一室で、寝台の上に身を横たえたまま、アンドレスの意識はゆっくりと戻りつつあった。
意識が戻っても、目を閉じたまま、身動き一つせずに横になっていた。
実際、ひどく全身が痛んで、微動だにする気にならなかった。
しかし、そんな身体的な痛みなど、心の痛みに比べれば些細なことだった。
何という過信――!!
彼は、自らの内側に築き上げてきたものが、全て音を立てて崩れていくのを感じていた。
自分はこれまで一体、何をしてきたのだろうか。
まるで井の中の蛙だったのだ。
何という愚かさ…!
きつく閉じた瞼が小刻みに震えている。