コンドルの系譜 ~インカの魂の物語~
コンドルの系譜 ~インカの魂の物語~
アフィリエイトOK
発行者:風とケーナ
価格:章別決済
章別決済は特定の章でのみ課金が発生いたします。
無料の章は自由にお読みいただけます。

ジャンル:ファンタジー

公開開始日:2010/06/20
最終更新日:2012/01/07 14:20

アフィリエイトする
マイライブラリ
マイライブラリに追加すると更新情報の通知など細かな設定ができ、読みやすくなります。
章一覧へ(章別決済)
コンドルの系譜 ~インカの魂の物語~ 第8章 雄々しき貴婦人
その数日後、コイユールは、再びアンドレスの館近くの集落中心部まででかけていた。

その日、彼女はいつものように自然療法の施療を求められて、この近辺の住人宅まで出向いていたのだった。


教会の傍のアンドレスの館の前を通りかかると、そろそろ暮れかけの夕闇の中に、ニ階の彼の部屋の窓から柔らかな灯りがこぼれている。
まだ休暇中のアンドレスが、自室にいるのだろうか。


(何をしているのかしら…)

窓を見上げてそんなことを思いながら、しかし、今日はそのまま館の前を通り過ぎ、家路を急いだ。


間もなく夜の帳が下りてくる。

彼女の住む貧しい農民たちの住まいは、ここからかなり先の辺鄙な地にある。
ますます年老いた祖母を、長時間一人で残しておくことが心配だった。
コイユールは半ば駆け足で、道を急いだ。




ちょうど露店の並ぶ繁華街も終わりにさしかかった辺りだった。

鮮やかな刺繍の布が並べられた露店の陰から、不意に小さな男の子が飛び出してきた。
コイユールが駆けてきたのとちょうど鉢合わせになってしまい、男の子はステンと前に転んでしまった。


彼女が「あっ!」と思った時には、既に子どもは地面に腹ばいに倒れていた。
まだ4~5歳の、とても幼い少年である。

コイユールは慌ててその場に跪いた。

「ごめんね!
私が…!」

急いで助け起こそうとすると、少年はゆっくりと自分で身を起こした。


彼は顔を下向き加減にしたまま、口をギュッと結んで、健気(けなげ)にも泣くのをこらえている。
見ると膝のあたりがすりむけて、血が滲んでいる。
相当痛みがあるのに違いないのに、その幼い子どもは黙って痛みを我慢していた。


コイユールは息を呑んで、切ない思いと申し訳なさから、改めて謝罪の目で少年を見た。
褐色の肌をしたインカ族のその少年は、あどけないながらも気品ある風貌をしており、身なりもかなり高貴な衣服を着せられている。


(どこかの貴族の子どもかしら…?)

絹糸のようなサラサラの綺麗な黒髪と澄んだ黒い瞳、そして、年端に似合わぬスッとした切れ長の目元が印象的だった。
86
最初 前へ 83848586878889 次へ 最後
ページへ 
TOP