spring
第4章 searching,
『元木咲良』
スマホに新しく登録されたサクラの名前を見て、顔が緩む。
男なのにサクラなんて可愛い名前、絶対嘘だと思ったけど本当だった。
『可愛い』
あの夜、サクラは何度も俺の耳元でそう囁いた。
会いたい‥。
あの声で名前を呼んで欲しい。
春休みに路上に立っていた時、俺は貴重品や身元の分かるものを全てコインロッカーに預けていた。
売春相手に追い剥ぎや脅迫の被害に遭う危険は知っていから、サクラと会った時も同じようにしていた。
はっきり言って、サクラは怪しすぎた。目が醒めるほど綺麗で、物腰も柔らかくて、身につけている物は高価なブランド物のスーツ。
そんな如何にもエリート然とした顔で路上で売春している高校生に声をかけたのだ。 怪し過ぎる。
でも、また会いたくなってしまった。
不本意にも受け取ってしまった金も返したかった。
こんな広い街で偶然会えるはずがない、会っても禄な目に遭わない。そう思いながらもサクラを探した。
だけど会えた。
サクラは優しかった‥。
スマホの画面を見て微笑む。
そこにはただ、アルファベットと数字の羅列があるだけなのに見飽きなかった。
ぷるるるるる
「うっ、そっ。掛かってきた!?」
スマホが映し出したのは、当たり前だけどサクラの名前だった。だって、このスマホに登録されているのはサクラの名前だけだ。
「は、い」
『こんばんは、ハル。
今、話しても大丈夫?』
サクラの声だ。
電話越しだと少し低く聞こえる。
「うん、大丈夫‥」
緊張を悟らせないように落ち着けっと自分に言い聞かせてみるけどダメだ。心臓がうるさい。
『メールアドレス教えてくれなかっただろう。名前も入ってないし』
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