spring
第4章 searching,
searching
「ハル‥‥、」
ハルと連絡先を赤外線で交換したとき、少しの下心があった。メールアドレスや電話番号の他に名前や誕生日が登録されているのではないかと期待していた。
ハルともっと仲良くなりたい。
昼間に会って出かけたり、誕生日を祝い合うような、そんな関係になりたかった。
けれど、実際に得られた情報は電話番号だけだった。 名前さえ、カタカナで“ハル”と入っているだけだった。
あまりに不自然すぎるケータイの登録内容。ハルはいったい何なんだ‥?
確かに掴めたと思ったハルのことが、もう分からなくなっていた。
あの夜の不慣れな様子では、ハルが日常的に売春をしてるとはとても思えない。
身綺麗にしていたし、髪や肌艶もいい。食事をしていても粗雑なところはない。路上を屯する他の少年少女とは明らかに毛色が違った。
けれど、一見不自然なケータイも、売春用だと思えば納得がいく。
メールでのやり取りは跡が残るが、電話での会話だけならメールより遥かに証拠が発見されにくい。
勿論警察沙汰になれば、着信履歴は簡単に調べられるが、そうでもしなければ普通は調べられないのだから。
売春が発覚するのは、子供が持つには高額すぎる貴金属や金銭などの“物”が先に見つかり、次いでケータイからその“情報”が見つかるのが常だ。
しかし、ハルは物を受け取らないし、ケータイにも情報を残さない。
一時の気の迷いで路上に立った少年が、個人情報が登録されていない、メールアドレスも取得していないケータイを用意するだろうか?
なぜ‥?
君は何故、そんなことをしているの?
俺は君の客でしかないのか?
ハルはたぶん、他にメールアドレスを取得している日常使いのケータイを持っているはずだ。けれど、あえて何の情報も入力していないケータイの番号を教えられた。
警戒されてるのか、迷惑がられているのか‥‥。
ハルの気持ちがわからない‥‥。
20