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第1章 first contact
「‥、いっぱい頼んだね」
風呂から上がった彼はテーブルの上を見て、ちょっと呆れた声を出した。
「お腹、減ってるみたいだったから。
ステーキで良かった?」
テーブルの上には彼の為のステーキのセットと、モッツァレラチーズや生ハムのサラダなんかの前菜と、自分用のパスタが並んでいた。
「ありがとう」
意外にも素直に礼を言って、彼は食事を始めた。
フォークとナイフで食事する様子は、どこか品がある。
「名前は?」
「‥‥‥」
彼は食事の手を止めて、大きな目で不機嫌そうに睨む。
関係ないだろ、といいたげだ。
「本名じゃなくていいんだけど。
名前、わからないと不便だろう?」
「‥ハル。アンタは?」
ハル、
可愛い名前だ。
直感で本名だと、何故か思った。
「さくらだよ」
だから、自分も本名を答えていた。
「桜木さん?」
「名前がさくらだよ」
「‥随分可愛い名前」
「本名、だよ?」
「別に何でもいいんだけど。
ご飯、美味しいし」
ハルは細身の体に次々、肉やら野菜やらを詰め込んでいく。本当に腹が減っていたんだろう。
「家出?」
「そうだよ。春休みだから」
また睨まれるかと思えば、あっさり肯定さた。
「ニュースでもやってたけど。
何で春休みになると家出するんだ?」
「逃げたしたくなっちゃうんじゃない?閉塞的で不安ばっかの家庭から」
「何が不安なの?」
「情けない父親や、ヒステリックな母親、痴呆の始まった婆さんとか?」
ハルは小首を傾げながら、そんな事を言う。
「そうなの?」
「さぁ、知らないけど」
いったい誰の話をしているのやら、ちょっと笑った。
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