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第2章 searching,
‥、なんて思った次の日にはもう、ハルに会いたかった。 また、あんな繁華街の路上に立っていたらと思うと落ち着かない。
「せーんぱい、どうしたんですか暗い顔して」
うなだれながらパソコン操作をしていた俺の隣に、伊坂が座った。出来のいい後輩だが、いつまで経っても先輩(俺)離れが進まなくて困る。
「‥俺はいつもこんな顔だ」
「ええ、元木さんはいつでも美人です」
部屋に凛と高い女性の声が響いた。
「ああ、宮原さん。お帰り」
「はい、今戻りました」
外回りから帰ってきた宮原さんは、完璧な笑顔で俺に微笑みかけ、その細い脚で伊坂の座ったイスを蹴り飛ばした。
ガンッッ
「どわっっ、ごめんなさいっ、退きます。離れますっ」
宮原さんは伊坂を退かすと、そのイスにストンと座る。
彼女は小さくて可愛くて美人だが、中身はヤクザのようだ。 頼もしくて好きだけどね。
伊坂は俺を挟んで宮原さんの反対側にイスを引き寄せて座った。
「元木先輩が美人なのはい つもですけど、なんか浮かない顔してるかなって」
伊坂はしつこくそんな事を聞いてくる。そんな酷い顔をしてただろうか。
だが、まさか遊びのつもりで一晩買った男の子が忘れられない、とは言えない。
「そんな事ないよ。ちょっと、今回の案件のこと考えてただけだ」
「元木先輩の今回のパートナーは亘理さんと宮原さんですか?」
「そう、色物三人組」
亘理さんはオネエの大男、宮原さんは美人だが性格は危険人物。それに、俺の三人組。
凸凹トリオだが、このメンバーで組んだ仕事は大抵上手くいく。
「いいなぁ。何で俺、仲間に入れて貰えないんですか?」
「伊坂はもう、一人立ちしなきゃダメだから」
「そうだけど‥」
「仕事しろ、伊坂」
「はい、すみませんっ」
宮原さんに睨まれて、慌てて自分の席に戻っていったが、顔はまだ不満げなままだ。
けど知らない。 今回の件に、伊坂の仕事はない。
それに俺は今、ハルのことで頭がいっぱいだった。
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