MaraSon Part2
第10章 7
「いいかい。模擬テストの結果を聞く限り、今から君は学力の心配をする必要はない。恐いのは健康の方さ。試験の当日にインフルエンザで高熱。受験お断り。目も当てられないけど、君が当日テストで六〇点しか取れないより、ずっと確率が高い。そういうことに注意すべきだ」
大樹君は小さくうなずく。
「ただ心の方の安定も大切だ。安心を手に入れたいなら、添削とアドバイスくらいはしてあげてもいい。事前に要領よく、聞きたいことをまとめてくるのが条件だ。それ自体が勉強にもなる。日曜に限らず、今は水曜も休みだ。ま、普段もだいたい八時以降は空いてる。事前にメールとかで確認くれればね。家近いだろう?」
「ありがとうございます!」
大樹君は心底うれしそうだった。僕の邪念が、わずかながら揺らぐのを感じた。
「それと……」
まだあるのか。僕はまた座り直した。
「お風呂、借りに来ちゃだめですか? 日曜以外に、週一回でもいいから」
「内風呂ないのか?」
「……今のアパートに移ってから、ないんです。流しで髪洗って、タオルでからだ拭いてます。それでも学校で汚いって思われないか、心配で……。時々、お風呂屋さんに行くんですけど、中学生になると、すごく高くなるから……」
庶民的な銭湯は地域で協定価格なんだと思うが、小学生以下が百何十円かなのに、中学生になるといきなり大人扱いで四百円以上。三倍くらいになってしまう。父親に金があった頃は僕のマンションの風呂くらいのは当たり前で、朝走ったあとにシャワー、朝シャンって感覚だっただろうから、落差がきついだろうな。かわいそうに。
「構わないよ。八時以降が目安で、事前にメールでもくれればね。急患も残業もあるから、毎日とはいかないが、まあいつでもオーケーだ」
大樹君の顔に、また喜びの表情が浮かぶ。
「ただね。そういう時僕が何もしないとは思わない方がいいよ。一緒に風呂に入るかもしれないし、それ以外にもね。僕はやりたいようにする。勉強の日にしてもそうだけど、それでも構わないのかい?」
大樹君は「はい」とはっきり返事した。
75
NIGHT
LOUNGE5060