MaraSon Part2
第2章 2
でも僕には気になることがあった。少女なら、それこそ携帯を自由に使う小学校高学年女子ぐらいから、やれ下着を売るだの行き着けば援助交際(売春そのものだ)だのと、自分たちがある種の大人の男の性的な嗜好の的であり、自分に商品価値があることをわかっていても不思議はない。でも大樹君は、僕に会った(いろいろとされた)先週まで、オナニー三回しかしたことのない小学生「男児」だ。自分のビデオや写真を売るなんて発想は、彼自身から出てきたものなのだろうか。
僕は表情を弛ませ、大樹君に微笑みかけた。
「それはグッドアイデアだ。確かに僕は君を商品にできる。そういうルートも持っている。それによる利益は僕のものだが、そこから小遣いをあげることはできる」
大樹君の表情に、期待めいたものが拡がったように見える。目がぱっと開かれている。会話の異常さとアンバランスな、子どもらしい愛らしさだ。小遣いを上げてやるって言われた小学生みたいな。
「ただ、君はどこからそんなことを思いついたのか、気になるな。それにお父さん」
急に呼ばれて、はっとしたように頭を上げた髭面の父親は、おどおどした目で僕を見ている。
「いいんですか? 息子さんがしようとしてることの意味、わかってます?」
父親は赤面し、泣き出さんばかりに表情を崩して、うつむいてしまった。表情は見えなくなったが、実際すすり泣いているのではないか。
大樹君は気遣わしげにそんな父親の顔を覗き込み、肘で肘をついて、
「いいんだよお父さん。何回も言ったでしょ? これは僕が僕のために決めたことなんだ。お父さんに責任ないんだから」
そいつは子どもの理屈だ。父上にはぜひ、責任を感じてもらいたいところだ。痛切に。
20
NIGHT
LOUNGE5060