MaraSon Part2
第2章 2
大樹君は続けた。強い言葉だった。
「先生は悪い人かもしれないけど、嘘を言わない人だと思います。僕は形だけの慰めなんていらない。同情なんかされてもしょうがない。そんなの僕には何の力にもならないんです。先生は僕に価値があると認めてくれた。手放したくないって言ってくれた。先生は約束も、守る人です。僕は約束、破りました。だからお仕置きされてもいいです。……ビリビリは、嫌だけど……。でもがんばるから、見捨てないで……」
「ちょちょちょ、ちょっと、待ってくれ……」
父親の前で、お仕置きとかビリビリとか、頼むから言わないでほしい。見捨てないで? 僕はひどく動揺しながら、父親の方に視線を走らせたが、彼は仏像みたいに動かないままだ。
僕は深呼吸して心を落ち着かせ、今にも泣きそうな、必死の様子の大樹君に語りかけた。
「大樹君……すまないが、僕には君の言っていることがイマイチわからない。いや、ほとんどわからないね。君は頭がいいはずなのに、話がすっ飛んでるよ。たぶんね。家庭の事情に踏み込む権利は、僕にはないけれど、わけもわからず三百万は出せないよ。君は僕を評価してくれたようだから、そう、正直に言おう。はっきり言って君には、金に換えられない価値があるが、もし換えるとするなら、三百万は安すぎるね」
大樹君はうなずいた。その時、のっそりと隣の髭面の父親が、顔を上げた。
「すいません。私から話します。最初からそうすべきでした」
僕が大樹君に何をしたかわかって、この親父は「すいません」とか言ってるのか?
「私は、数年前まで会社を経営していました。まあ、ほとんど個人事業に近いですが、いい時は年収が五千万以上、ありました」
近頃流行りの、青年起業家ってやつか。
「今から思えば愚かなことですが、上がることしか考えていませんでした。ですからかなり荒っぽいお金の使い方をしていました。この子も、私立の名門幼稚園、小学校に通わせていました」
少しだけ、話が見えてきた気がした
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NIGHT
LOUNGE5060