MaraSon Part1
第1章 1
ところが。
ここ半年ぐらいだろうか、彼が一人で走るのを見る機会が多くなった。父親の仕事が忙しくなったか、変わったのかもしれない、と僕は勘ぐった。
その上彼は、僕にとってたまらなく魅力的な発達段階に達していた。五年生としても小柄な方だろうが、幼さの中にも男の子から少年への移ろいの過程の危うさ、そろそろ主張し始める大人の筋肉の気配、第二次性徴の訪れるか訪れないかの瀬戸際、それらが僕を強くとらえはじめ、そして僕はとらわれ続けた。もう生えただろうか、精通はしただろうかと、すれ違う度に足の進みを遅くして、振り返り、妄想してしまう。また彼は幼児の無表情さ、男児の無邪気な表情を通り過ぎて、ここ最近はどこか憂いを帯びた暗い表情をしていた。一人で走っている時にそれは顕著で、謎めいていて、僕を惹きつけてやまなかった。
僕は実際には使ったことのない、危険な道具をたくさん持っている。その使用を妄想する。いつか一線を超えてしまうだろうという危惧を抱きながらも、道具は増えていっていた。
年明けの日曜日、僕はとうとう、流れ次第では一線を破ってやろうと決意して、必要な道具を持ち出し、いつものコースを走らず、しばしば少年とすれ違う河川沿いの付近に車を停め、ジャージの上にウインドブレーカーの姿で、ジョギングのふりをして短い距離を往復していた。
ここ一ヶ月は、あの少年はいつも一人だった。昨日は会わなかった。いつも時間が合うとは限らないのだ。日曜の早朝、ジョギングの人は少なめだ。その日だけは朝寝する人、あるいはどこかに出かける人が、多いのだろう。でも彼は、日曜も大概走っていると僕は知っている。
6
NIGHT
LOUNGE5060