MaraSon Part1
第1章 1
そんな中で僕は、もう二年ほども、気にし続けている子がいた。いつも父子(おやこ)で走っていて、初めて会った頃は三、四年生に見えた。短髪の時もあったが、少し髪が伸びると柔らかな癖毛で、ウェーブした黒く健康な髪が眉にかかっていたり、額に貼りついていたりした。愛らしい丸顔で、二重のくりくりとした目をしていて、幼い頃は今よりもっと頬がぷっくりとしていた。色白で、走って血の巡りがよくなっているので、頬がいつもほんのり朱(あか)く染まっていた。夏場はランニングシャツで走っていることもあったが、それだと腕や首のあたりも、白い肌が朱に染まり、汗がにじんで、シャツは素肌に貼り付いて、エロチックだった。今も丸顔は変わらないが、思春期が近づき、少しずつからだつきは幼児っぽさから抜けだして、毎朝のジョギングの成果もあってか、特に腰から太腿あたりは、ジャージの上からでもしっかりしてきたように見えた。でも全体としては、細身ではないががっちり型には遠い、しなやかな感じの肉体だった。
彼は歳のわりには小柄なんだろうと思う。実際の歳を知らないから、本当は何とも言えないのだが、ずっと父親(よく考えればこれも確かめたわけではないが、普通に考えればそうだ)との対比で見てきたせいで、そういう印象があった。何しろ父親は軽く一八〇を超える(僕との対比だ。僕はやっと一七〇超えくらいの、平凡な体格だった)身長の上に、豊かな肩幅をして、ジャージの上からでもその筋骨逞しい肉体が想像できた。肌は浅黒く、あるいはそれは人工的なタンニングの成果かも知れなかったが、あらゆる点で息子と似ていない父親だった。最初に出会った時は、その滑稽なまでの対比のために、少年が幼児のように見えた。でも何度も会えばさすがに小学三年生はいっていると判断した。からだのバランスや顔つきなどを見てだ。僕だってだてに小児科医を何年もやっていない。
父親は、少年の年齢からしても、僕よりちょっと年上程度なんだろうけど、巨漢の上に熊みたいな髭面で、二人並べば貫禄負けは明らかで、かわいい男の子を連れていることも相俟って、僕は彼にちょっと嫉妬を感じていた。
3
NIGHT
LOUNGE5060