人形の見る夢
第2章 プラチナ
「あらあら、まあまあ。
どうしましょう、ガラスケースから出てきたら益々可愛い」
老婆は、水色のワンピースを着たあの子を見て、両手を合わせてはしゃいでいる。
「ご主人様、名前を」
「そうよね、名前ね。どうしましょう。ああ、これから忙しいわ。あなたに似合う服も捜さなくては」
「ご主人様‥、名前‥」
大興奮の老婆に彼女はちょっと困ったようにオドオドする。だけど老婆の方は本当に嬉しそうで、お付きの黒服の人に、どこの店に連れて行ってと話をすすめている。
「大興奮、だねえ」
マスターは、やっぱり女性は幾つになっても綺麗なものとお人形遊びが好きだと、呟く。
「うん、
でも、あの青年に買われていくよりは、きっとずっといい」
「そうだね、
あの青年はほかの店で、今年だけで既に四体の人形を買っているそうだよ。何にするのかは、わからないけど」
「いらっしゃいませ、お客様。
今日はどんな子をお探しですか?」
「上品そうな、美しい人形を」
そう言う綺麗な人形が、汚されて壊されていくのを見るのが好きな男は多い。
人形には何をしても犯罪にはならない。だからといって、残虐な行為を堂々と行うには皆、世間体が気になる。
だから、最近の紳士の集まりでは、秘密裏に綺麗な人形を暴行し、それを肴に酒を飲むのが流行っていた。
あの人形は次の集まりのメインになるはずだったが、惜しいことをした‥。
まあ、いいさ。
人形は幾らだっているんだから。
「‥では、さようなら」
「うん、元気でね」
プラチナブロンドのあの子は、老婆に手を引かれて、店を出て行った。
明るい日差しに照らされて、硬質な美貌が、今まで見たことのない柔らかな表情を作った。
彼女は自分のマスターを自分で見つけたんだ。
「人生の選択って、たった一つ間違うだけで、雲泥の差がつくときってあるよね…」
「マスター?」
「何でもないよ」
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