人形の見る夢
第6章 撫子 前半
マスターの手から温くなったお茶をもらってゆっくり口をつけた。少しでも火傷をすれば私たちには一大事だから。
「心のない人形で、
昔の恋人の代わりになるのかしら」
「代替えを必要とした時点で、昔の恋人なんて既に必要としてないと思わない?」
「それ以前に、あの男性と撫子似の女性が本当に付き合っていたのかが疑問だわ」
あの冴えない見た目で女性にモテたとは思えない。
人形でなければ、こんな綺麗な女性と付き合える人には見えなかった。
それでも、お金はあるようだけど。
「あの男性は自我の発達していない状態を歓迎しているよ。希望なら配送までの間に箱の蓋を開けて、君の話し声を聞かせることも提案したけど、ご希望じゃないそうだ」
「…寂しいわね」
誰が寂しいのかわからないまはま、私はまた呟いていた。
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