人形の見る夢
人形の見る夢
成人向
発行者:ほおずき
価格:章別決済
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ジャンル:その他

公開開始日:2012/03/05
最終更新日:2015/07/17 11:20

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人形の見る夢 第6章 撫子 前半
「今から箱の蓋を開けます。けど、蓋が開いている間は決して話しはしないでください」



「分かりました。黙っています」


マスターに念を押された男性は、好奇心に瞳を輝かせながらも素直に頷いた。


「…君もだよ」


「分かっているわ」


マスターは私に部屋に戻るように言ったけど、どうしても箱の中の彼女が見たくて我儘を言って店の中にとどまった。マスターは仕方ないな、と溜め息をついて渋い顔をしている。

私はガラスケースの中の人形の声が聞こえてしまう。私の声も、ガラスケースの中の人形により鮮明に届くから、マスターは彼女と私を会わせたくないようだった。





マスターは黒い鍵を取り出すと、黒い鍵穴へと差し込み、ぎぎっと重い音をたててロックを解除した。
黒い蓋が開かれて現れたのは、目を開けているのに焦点を結ばない空虚な瞳だった。


マスターの隣で男性客が息を飲む。


白い肌は陶磁器のように白く滑らかで、黒い瞳と髪は濡れたように艶やかだった。前髪は眉の上で切り揃えられ、後ろ髪は腰の辺りまで真っ直ぐに伸びていた。

少し切れ長の瞳に感情と知性が宿れば、きっと美しく聡明な佇まいになる。



けれど、なんの声も聞こえない。
この子は何も話さない。



空っぽだ。


身を乗り出すようにしてガラスケースを見つめていた男性に身振りで合図して、マスターは蓋を閉めた。


扉が閉まる瞬間、黒い瞳がこっちをみたような気がしたけど、多分気のせい。



マスターは物音を立てるのさえ気を使い慎重に扉を閉めた、鍵をかけた。


「もう、声を出しても大丈夫ですよ」


「ビックリしました。なんて綺麗なんだろう」


男性は興奮気味に、信じられない、僕の理想通りだと捲し立てた。



「あの彼女と似ていましたか?」


「ええ、今よりももっと若いときの、
僕の思い出の中の彼女にうりふたつだ」


「それはよかった。
お役に立てましたか?」


「ええ、ありがとうございます。彼女を買います」


「ありがとうございます」


商談は至ってスムーズで、とんとん拍子に話はすんだ。男性は直ぐにでも彼女を引き取りたいと言ったけど、知能の発達が済んでいない人形を歩かせて帰るのは無理だから後日配送になった。







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