人形の見る夢
第1章 ビスクドール(はちみつ)
「綺麗なドレスだったね、誰が選んだの…」
「いつもの衣装屋だよ。君もああいうドレス着たい?」
「悪趣味…」
「それは失礼」
マスターはちゅっと私の額にキスをして、搬送用の車を出した。
「いらっしゃい。私の花嫁」
紳士は屋敷に届けられた私を恭しく迎え入れてくれた。
「初めまして、ご主人さま」
男性の家は、それは豪華な造りだった。
あの古い店の中とは違う、すべてが新品のように輝いていた。
男性は私を腕に抱きあげる。
まるで店の中で、あの子だけがマスターに抱っこされていた時みたいに。私も私だけの居場所を漸く見つけた。
「御主人さま…」
男性の首にすり寄れば、その大きな手が私の自慢の髪を撫でる。
「いい子だね。君の名前は?」
「私には名前はありません。マスターは買われていく子に名前は付けないの」
君たちのご主人様に名前を付けてもらいなさい、と言われて、私たちは名前を貰えない。
「ふむ。あの店の亭主は若いのに賢い男だ」
「御主人様、名前を」
「私の花嫁、君の名前はシェリーだ」
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