人形の見る夢
第4章 うさぎ
「…一人で歩き回ってはいけないと言っただろう?」
「‥ごめんなさい」
白夜は昨日から熱が下がらない。
昨日、一人で自室から出て、俺を探し回ったせいだ。白夜は目が見えないせいで、カーテンが開いていることに肌が焼かれるまで気づかなかったらしい。
日光に焼かれ悲鳴を上げた白夜を使用人が見つけて、慌てて医者を呼んだ。しかし、人形の治療は人間よりよほど困難らしい。
白夜の腕の皮膚は、赤く爛れてしまい熱を出した。
白夜の自室がある二階は、すべて日光を遮る遮へい板を張って外の光が入らないようにしていた。しかし、屋敷の中すべてをそうするわけにはいかなかった。
だから白夜には一人の時は自室から出てはいけないと言い聞かせたし、今まで言いつけを破ったことはなかった。
「マスター…、怒らないで。
反省してる」
汗をかいた赤い頬を冷たいタオルで、そっと拭ってやる。色素のない白夜の肌は、普段は乳白色だが、動いたり興奮すると薄紅に染まる。
「怒ってない。ただ、呆れてる。
お前の無茶も、自分の迂闊さも」
「ごめん。
マスターが帰ってきたと思ったんだ。でも、待ってても部屋に来る気配がなかったから」
俺は一昨日は仕事の都合で家に帰らず、昨日の昼間に帰る予定になっていた。だから、白夜は日の高い時間から俺が帰ってくるのを今か今かと待っていたのだろう。可哀想なことをした…。
「遅くなると連絡するんだったな。
すまなかった」
「いいんだ。今は、マスターがいるから。ねえ、抱いてよ」
「馬鹿なことは熱が下がってから言いなさい」
「‥なら、抱っこ」
「もう白夜は小さくないんだぞ」
「もっと小さい頃から、マスターの傍にいられれば良かったな。
何で早くケースから出してくれなかったの?」
「その方が、お前のためだと思った。
小さいうちにガラスケースから出すと、活発な子に育つと聞いたから」
「外に出たら、火傷するんだよ?
心配しなくたって、外になんて出たがらないよ。火山に飛び込むようなものだ」
「現に火傷したじゃないか」
「‥事故だってば。たまたま、部屋から出た。そしたら、たまたまカーテンが開いていた」
「それをやんちゃと言うんだ」
「だって、不安だったんだよ」
白夜は目に涙を溜めて、小さく笑った。
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