人形の見る夢
第3章 チョコレート
「ショコラっ。走るなと言ってるだろう?」
「や、です!」
「やじゃないっ。
着物はどうしたっ」
「重いから嫌です。外に行きたい」
「駄目だ、外は炎天下だぞ」
「マスターも一緒に行こう」
「こら、」
初めこそ大人しかったが、今やショコラは完全に悪戯小僧だ。元気いっぱい過ぎる。
あの店の店主は大切に扱えば、5、6年は保つと言った。だから、炎天下で日焼けしたり、転んで膝を擦りむいたりさせたくないのに、ちっとも言うことを聞かない。
浴衣さえも、暑い重いと言って、着せてから10分で脱いでしまう。
走るから暑くて重いんだ。
「マスター、早く」
「ショコラ、なにをそんなに急いでるんだ」
「蝉、捕まえたいっ」
「止めなさいっ」
屋敷の女たちは、そんなショコラを見て、クスクスと笑う。
「今日はご主人様がいらっしゃるから、ショコラ様は嬉しいんですわ。
いつもはもう少し、大人しいですもの」
「そうじゃなければ、困るよ」
「新しく買って頂いた浴衣だって、本当はとても喜んでますわ。ただ、あんまり褒められたから、照れてしまったのでしょうね」
「はぁ」
ショコラには毎晩のように好きだ、可愛い、愛してると言って育ててる。なのになんで浴衣姿を誉めたり、俺の休日ぐらいで、あんなにハイテンションなんだろうか。
「マスター、早く」
ぐいぐい俺の浴衣の裾を引っ張って外に連れ出すショコラに笑いが出る。
「‥駄目だよ、蝉は捕まえちゃいけない。蝉は、七年も地面にいるのに、地上に出れば七日しか生きられないんだ。
捕まえちゃ、かわいそうだ」
「七日‥?」
「そう、かわいそうだろう」
「うん、止める。
じゃあ、何して遊ぶの?」
「風呂に入って、もう一回浴衣を着な。夕方には、お祭りに行く約束だろう?」
「うん」
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