人形の見る夢
第3章 チョコレート
「‥不思議だな、たった一ヶ月見なかっただけで、ずいぶん大きくなった」
あの男性は、あれから度々店に来ては、チョコレート色の子を優しい目で見つめていた。
今回は、一ヶ月ほど店に顔を出さなかったけど、久しぶりに来て、感慨深げにため息を吐いていた。
チョコレート色の子は成長期よろしく日増しに大きくなってる。もう女の子には見えなくなった。けど、その分綺麗になった。
男性の方も相変わらず綺麗で、店にいた他の客が人形じゃなくて男性を見ているほどだ。黒檀のような髪と瞳をした、繊細で華やかな容姿をしている。
着ている物はとても上品で、それを無理なく着こなしていた。
きっと、本物の裕福な人だ。
「綺麗になったでしょう?」
「ああ、見違えて綺麗になった。
なるほど、店主の仰るとおりだ」
マスターは、誉められて、いつになく嬉しそうだった。
この分だと、チョコレートの買い手は、この男性に決まりのようだ。
「可愛いな‥。性格はどんな子なんだろう」
「怖がり、よ。大人しいし」
男性は突然喋り出した私に驚いたようだけど、直ぐにニコリと笑った。
「他には?」
「照れてる。あんまり見つめてるから」
「照れ屋なのかな」
見つめ過ぎだと言ってるのに、繊細な外見の割に、案外神経は図太いのかもしれない。
「‥、でもほって置かれるのは寂しいみたい」
一ヶ月も見に来なかったくせに、と睨んでみれば、またニンマリと笑う。
「寂しがりなのかな?」
「まだ、子どもなの」
だから、まだ連れていっては駄目よ。
「‥では、まだ譲ってはもらえないか」
「あっという間、ですよ。
もう少しお待ち下さい」
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