人形の見る夢
第3章 チョコレート
チョコレート色の彼は、恐々私に声をかける。
「‥‥‥こんばんは」
男の子は嫌い。
でもこの子は小さいし、昼間マスターにも虐めてはいけないと叱られたばかりだ。
それにこの子は、まだ当分店にいるのだし、仲良くしなきゃいけないから、返事をしてあげることにした。
「こんばんは、買い手が決まって嬉しい?」
「解らない。
ガラスケースから出るの、怖い」
この子はもしかしたら、少し変わった子かもしれない。大概、どの子も早くガラスケースから出て、自分のマスターを見つけるのを夢見てる。ガラスケースの中で時間(寿命)が尽きるのを恐れてる。 なのに、この子はガラスケースから出るのが怖いらしい。
それか、もしかしたら、
「‥まだ子どもなのね」
母の胎内で眠っている胎児のように、無理矢理に外に出されるのを怖がっているのかもしれない。
「君の方が俺より小さいじゃないか」
やっぱりこの子はまだ全然幼い‥。
「‥そうね、私の方が小さい」
見た目だけは‥。
「外、楽しい?」
「それぞれだと思うわ。私は楽しいけど。
だけど、ガラスケースの中が居心地いいなら、無理しなくていいのよ。
マスターはまだ、あなたを売るつもりはないみたいだから」
いずれは、ガラスケースの中は退屈で、窮屈になるわ。
「‥うん。ありがとう」
この子は、男の子じゃなくて
まだ“子ども”だ。
可愛い‥
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