人形の見る夢
第3章 チョコレート
マスターはあの子を商品にするよりディスプレイにするつもりで仕入れてきたらしい。
美しく成長していく過程を見て貰おうと。
だけど、意外にも次の日にはあの子のガラスケースの前で足を止めた人がいた。
「、可愛らしい子だな」
「その人形ですか。まだ子どもですが、ゆくゆくはきっと美人になりますよ」
「それは楽しみだが、今でも十分可愛いよ。値札がないようだが、商品じゃないのかな」
ガラスケースを見つめているのは二十代半ばぐらいの若い男性で、ガラスケースの人形よりもいっそ美しい人だった。
「ディスプレイのつもりだったんですよ。人形が美しく成長していく過程を、お客様に見て貰おうと思いましてね。
人形は大切に扱えば、5~6年は保ちます。しかし、最近ではあまり長く手元に置かない方も多くて」
「なるほど、
では売っては貰えないか」
「まだ子どもですしね」
「大人になれば、商品にする?」
「ええ、人形が売れないと私も困りますので」
「では、予約ではどうだろう。
この子が商品になったときは、私が一番に貴方と交渉させてもらう。
条件は、そのとき次第」
「私にとっては願ってもないことですよ。あの人形も、喜ぶでしょう」
男性はにっこりと笑った。
硬質な美貌がふわりと柔らかくなって、途端に人好きのするものになった。
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