春夏秋冬
第2章 桜
ー桜ー
「光、何してるの?」
皓様に言われたように昼前に寝室を訪ねたが、光はもう部屋にいなかった。
光の部屋に行ってみれば、彼は何故かモップで床を拭いていた。
「部屋の掃除です」
「そんなの女中がするだろうに」
「他にすることがないから」
「なら、おいで。お茶にしよう」
笑って背を向けると戸惑いながらも光はあとを着いてきた。
「あの、何処へ?
俺、部屋から出ないように言われてて」
「知ってるけど、大丈夫だ」
皓様の趣味を強く反映した庭には、まだ見頃には少し早いが見事な桜の木がある。その脇に建てられた東屋は俺のお気に入りの休憩所だった。
屋敷の中から廊下伝いに出られて靴を履き替える必要もない。
「外…」
「寒いかい?」
「いえ、
外、久しぶりで…」
「座って。お茶飲もう。
大丈夫だよ、皓様の束縛もそのうち落ち着くから」
俺が藤で出来た椅子に腰かけると光も倣うように座った。
もともと色白で華奢な少年だったけど、この一週間で随分痩せていた。
「何故、部屋から出してもらえないんでしょうか…?歩き回ると迷惑ですか」
「いや、単に皓様が心配性なだけだから光のせいじゃない。時間がたてば落ち着くから、」
「はい、」
正直、俺も皓様の執着には戸惑っている。
もともと、何に対しても執着や独占欲は強くない男が、光にはまりこんでいた。けど、その執着が光への好意から来ていることだけは確かだから、いずれは落ち着くはずだ。
その前に光が疲れきってしまわないように気を付けなければならない。
「なにか困ったことはない?」
「いいえ、」
「ご飯は口に合わないかな。全然食べてないだろう?」
「…動かないからお腹が減らなくて」
「そっかぁ。でも食欲なくても少しでも食べるんだよ。随分痩せた」
「はい、」
「ほら、景気の悪い顔しないの。桜餅食べな、俺のお気に入りの店だから美味しいよ」
光は困惑しながらも桜餅に手を伸ばし頬張った。
「ピンク色ってさ、ちょっと幸せな気分になるよね。桜も綺麗だしさ」
「はい…」
光は桜の大木を見上げて、瞳を潤ませた。
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