春夏秋冬
第9章 柊 (続)
雪視点
「兄貴っっ!?」
光によく似た少年だった。
だけど光より背が高くて、目はつり上がり気味でかなりキツイ印象の子だった。
「風っ、」
少年の顔を見た瞬間、光は駆け出して、その子を抱きしめた。途端にそのキツイ顔が緩み、目に涙が浮かんだ。
「兄貴っ、兄貴っ、、」
自分より小柄な光に縋るように抱きついて、言葉が出ないのか、ただ泣いていた。
光は背伸びして少年の頭を撫でてやる。落ち着くまで、ずっと背をさすって、宥めていた。
「風‥、
元気だった?背、伸びたな」
「兄貴はっ、兄貴はどうしてた?」
「元気だった。
月白様もお屋敷の人達も、みんな優しくしてくれる。
ごめんな、連絡出来なくて」
実際には屋敷には未だに光を避けたり、嫌がらせするような使用人もいるし、お館様の親族も光を良く思っていない。
体調を壊したこともあるし、慣れない生活にストレスを溜めているような様子もあった。
だけど、弟を落ち着かせようとしているみたいで、何の迷いもなく、元気だと言った。
光が笑いかければ、弟も少し落ち着いたのか、表情を和らげた。
「兄貴は相変わらず、チビ」
「うるさい」
軽く頭を叩かれると、少年は照れくさそうに笑って、光の体を離した。
「今、おチビ達も来る」
「お前、置いてきただろう?」
「ごめん‥」
顔を覗き込んだ光に、弟はしゅん、と肩を落とす。
弟の方が外見は大人びているが、光はかなりしっかりした長兄だったようだ。
「泣き止んだ?」
「‥ん、」
「手首、痣になったな‥」
光が言うように、涙で濡れた目元を拭った弟の手首には、縄で縛られたような痣がくっきり浮いていた。
な、に、あれ?
隣で皓様や潔様も怪訝な顔をした。
「大丈夫、薄くなってきてるし」
「‥村の人、平気か?」
「俺、村出てる。
兄貴来るって聞いて、帰ってきた」
「どこにっ?」
「隣町、住み込みで蕎麦屋してる。働いてる」
歳はまだ13、4の筈なのに。
それがもう、家を出て労働している‥。
「‥ごめんな。
俺が、泣いたりしたからだ‥」
「違うっ、俺が行かせたくなかった」
どういうことなのかしら‥。
さっきから2人の会話がうまく飲み込めない‥。
「「兄ちゃんっっ」」
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