春夏秋冬
第8章 柊
ジジジジジジ
役立たずな目覚まし時計に起こされたら、皓様はもういなかった。
7時だ。もうとっくに仕事に出かけられただろう。
皓様と一緒に起きようと思って、5時にセットしたのに、なんで7時に鳴るんだ、ばか。
「ばか…」
絶対、皓様が自分だけ5時に起きて、その後に7時にセットしなおしたんだ。
「ばか………」
一緒に起こしてくれればいいのに。行ってらっしゃいを言いたかったのに。
帰ってくるのは遅いのに、仕事に行くのは早い。
そのくせ、俺が夜中まで起きているのを見ると、顔を顰めて、
「ちゃんと寝ないから、光はチビなんだ」、とか失礼極まりないことを言う。
じゃあ、一体いつ会えるんだ、ばか。
「光、起きてる?」
「雪さん…」
「起きてきなさいな、朝食の時間よ」
「はい、、」
寝ぼけている場合じゃない。起きないと…。
こうやって誰かに食事を運んでもらう生活に慣れてきた自分が怖い。
家庭教師とか意味が解らない。
お花ってなんだ。生け花?華道?何のために?
花なんか活けるぐらいなら、キュウリでも育てたい。
だけど、皓様は俺の活けた花を見ると笑うんだ…。
時々は、ご自分も花を活けたりもする。
「俺はね、芸事は本当にセンスがなくて。子供のころから何年も習ったけど、ちっとも上達しなかった」
そう笑いながら、白い指で優雅に花を活けていく。
「綺麗、です」
「ありがとう」
…花なんかより、皓様の横顔が美しかった。
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