春夏秋冬
第7章 金木犀
「…はい、今日はこれくらいにしよう。
光も疲れただろう」
「俺はまだ元気だけど?」
「椿がいつでも元気なのは知ってるよ」
「じぁさ、散歩に行こうよ。凄い広い庭だよね」
「椿、頼むから少し落ち着いて。
人の家でふらふらしちゃダメだ。光も困ってるよ」
「散歩、行きましょう。
庭なら、俺も行けるから…」
「やったー。光、行こう」
「おいおい…。お前は小学生じゃないんだから」
「…ある意味では皓様の不安と雪の狙いは的中したね。大人には気を許さなかった光がなんか凄くなついてる」
潔と雪は庭を歩く三人を縁側から眺めていた。
「ええ、良かったですわ。
光に一番必要なのは当年代のお友だちだと想ってましたから」
双子と光を会わせてから既に五日。
三人は午前中は一緒に勉強して、昼御飯を一緒に食べていた。午後は用事があって出掛けていく双子を光は残念そうに庭で見送っていた。
「それに、双子の話だと光はとても物覚えが良いらしいよ。勉強熱心だし」
「お舘様か妬かないといいのですけど、」
「あの大人げない大人が一番困る」
潔は今は不在にしている自分の主を思って溜め息が出た。
「今回のことは裏目に出ませんか。
お館様は光に同年代の子を近づけるのを嫌がっていたようですし」
皓が望んでいたのは大人の教師をつけ、見守ることだったのだろう。
けれど、それでは意味がないと潔も雪も思ったのだ。光のことを見守っている大人なら既に自分達がいるのだから。
「光のことを思いやる余裕は出てきたみたいだけどね。ちょっと前なら光を独占したくて、俺にさえ妬いてたぐらいだ」
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