春夏秋冬
第7章 金木犀
「始めまして。兄の植木橘です」
「弟の椿です。親が冗談のつもりで名前を木にかけたんだ。よろしくね」
「…坂下光、です」
全く同じ顔をした二人に光は固まった。
兄弟だとは聞いていだが、双子だとは思わなかった。会うたびに自己紹介が必要になりそうなほど二人はそっくりだ。
「小さいね。歳いくつ?中学生?」
橘と名乗ったラフなシャツ姿の弟は初対面の光の頭をポンポンと撫でる。
「……15です。中学は卒業しています」
背が低いことは自覚しているが、だからこそ言われたくないこともある。
初対面なのに馴れ馴れしすぎる椿の仕草に光の眉が寄ったが、兄の方は敏感に光の表情を察して弟の手を叩き落とした。
「ごめんね。失礼なやつで」
「い、え」
全く同じ顔で違う表情で謝られると、なんだか混乱してくる。優しい雰囲気の橘につられるように光は頷いた。
「あはは、可愛い。面白い。
一ヶ月仲良くしてね」
兄に手を叩かれたにも関わらず、まだ光の頭を撫でてくる弟に、光は仲良くできないかもしれないと、ふと思い一ヶ月か不安になった…。
「はい。じぁ、テキストの1ページ目を開いて。外国語はね、25文字のアルファベットで出来ているんだ」
「25文字…」
「そう。この国の言葉が50字でできているのを思えば簡単かもしれないね」
橘の教え方は丁寧で親切だった。
人見知りと緊張から抜け出せない光を気遣いながらも授業を進めていく。
「…はい、これからは俺の時間です。
これがpenで、これがbook、私がIで君がyou」
「…はい?」
「はいじゃなくて、光も言うの。口に出すのが一番の早道だ。ペンはそもそも外国語なんだよ。はいっ、一緒にpen!」
「ぺん?」
「そうそう、その感じ」
橘とは対照的に怒濤のように喋る椿だが、高すぎるテンションと笑って見守る橘につられながら、訳が解らないなりに身近なものの単語を二人で連呼し続けた。
「あはは、楽しい。光は物覚えがいい」
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