春夏秋冬
第7章 金木犀
「行ってらっしゃいませ」
光は持ってくれていた鞄を俺に手渡す。
俺が隔週で王都へ出張するのは決まったことだし、光を引き取ってからもずっと同じ生活を続けていた。けど、今なぜかとても離れがたかった。
「…今度は五日で帰ってくるし電話もする。
光も何かあったら、電話しておいで」
「はい」
光は言葉少なげにコクンと頷いた。
そんなに口数の多い子ではないのは知っているが、喋ってくれないことが寂しかった。
昨夜から光は元気がなくて、ベッドの中でも黙ったまま俺にしがみついていた。
「…光、」
「はい」
「お土産は、何がいい?」
贈り物で機嫌がとれるほど単純な子じゃないのは知っているが、笑って欲しかった。
「…早く、帰ってきてください」
…俺の方がよっぽど単純で、光の言葉だけで胸が一杯になる。
「ああ、そうしよう。
早く仕事を終わらせて帰ってくるよ」
「…はい」
光も、少しだけ微笑んだ。
不安だった。
また皓は行ってしまう。一週間おきに彼は出掛けてしまうのだ。
その間、自分は一人だ。
雪はそれとなく光の側にいてくれるし、潔もいつも気にかけてくれている。
けど、たからと言って皓がいないことの代わりにはならない。
自分はこんなに寂しがりだっただろうか?
村にいたときからこんなに不安定だっただろうか…。
光は遠ざかっていく車を見つめながら手を握りしめた。
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