春夏秋冬
第7章 金木犀
「家庭教師、ですか?」
「そんなに大袈裟なものじゃないよ。相手は夏休み中の大学生だ。休み中、このお屋敷に泊まり込むから光の勉強でも見てもらったらと思ってさ」
「勉強、ですか?」
「二人は外国語が得意だよ。皓様も外国語が得意で部屋に一杯本があるだろう」
俺の部屋には外国語の本が置いてあって、光が出したりしまったりをしきりに繰り返していたことがある。今思えばきっと外国語が読めなくて、読める本を探していたんだ。光は本を読むのが好きだ。
「外国語、教えてもらえるんですか?」
「うん、相手はまだ学生だから教えるのは慣れてないかもしれないけど、きっと一生懸命光の勉強をみてくれる」
「…お願いしていいんですか」
「決まりだね」
潔はニンマリと頷く。
光の性格を考えれば、潔が勧めることを無下にするはずもないし、好きな本のことを持ち出されれば気持ちも動くだろう。
「強引だよ…。
光、無理しなくていいんだよ?」
「勉強、教えて欲しいです…。
皓様のお部屋の本、読みたいです」
「よし、決まりだ。
来週には二人が到着するから、そうしたら紹介するね」
「はい」
光は嬉しそうにはにかんで頷いた。
こうしてトントン拍子に光の家庭教師は決まってしまった。自分から言い出した事だけに止められないが、俺は既に後悔していた。
自分だってこの独占欲がなんとかなるならしたいくらいだ…。
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