春夏秋冬
第7章 金木犀
「そうですが。大学生なら私達より光に年も近いですしね」
橘と椿は高等教育を受けているときに両親を亡くした双子の兄弟だ。
進学を諦めきれず二人が奨学金を探している時に潔が見つけてきた。とても成績のいい生徒だが何よりその逞しさが気に入ったらしい。
うちが主催していた奨学金制度はその年既に申し込みが過ぎていた。二人は次の年に試験を受けることになったが、それまでの間、二人が学ぶことを諦めないようにと、潔が個人的に援助していたほど気に入っている。
俺が支援しているというよりは潔が育てている学生だ。
俺も会った事はあるが、なんと言うかバイタリティーに溢れた逞しい兄弟で、礼儀正しくて顔達も整っている。
「…ちょっと待ってくれ、急すぎる。
まだ光になんの話もしていないし」
光の回りにおかしな人物は近づけたくない。
だが、魅力的な人物も近づけたくない…。
「なーに焼きもち焼いてんのさ。アホらしい。
話なら今すればいい」
「私、光を読んで参ります」
「ちょ、雪!?
なんなんだ、二人して…」
「いいことだと思ってさ。どんな心境の変化か知らないけど」
「…光が明るくなったって言っていただろう。俺もそう思った。でも、根本的にはあの子の不安定さは解決されていないんだ…」
「…何か、あった?」
「夜、泣いて母親と弟の名前を呼んだんだ。
寝ぼけていたようでその後直ぐに眠てしまったが。何か居場所になるようなものが出来ればいいと思う。
…けど、学校とか友人は、な」
「皓様のその独占欲の方が、俺はちょっと心配だよ。いいカウンセラーでも紹介しようか?」
カウンセラー云々は光を引き取るときに何度も言われて慣れている。頭がおかしいと言いたいのだろう。
「相変わらず、酷いな」
「光は皓様の事好きだよ。自分で気がついてるでしょう?」
光は俺の事を好きだとは言わない。
けれど、俺が好きだよ、と言えば顔を赤らめて頷く。食事を作ってくれたり、名前を呼んでくれる。温かい手で抱きしめ返してくれる…。
想ってくれているのは分かる。
それでも安心できないのは…。
「自分のしたことが、酷いことだと思うからこそなんだろうな」
「だーから、言ったでしょ」
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