春夏秋冬
第1章 春
「‥眠れないときもある。
だけど、別に今に始まったことじゃない。
明日の朝は早いが移動の車の中でも休める」
皓は何でもない事のように呟いて、また俺の頬にすり寄った。
くすぐったい…。
「なぜ?」
「うん?」
「なぜ、眠れないのですか?」
「‥光は、よく眠れている?」
眠れない。今まさに眠たいのに眠れないでいた。
「眠れません」
言えば、皓は少し笑った。
部屋に来たときの不気味さや苛立ったような気配は落ち着いてた。
「寝ていいよ。もう襲ったりしないから」
そう言われてもさっきの今で信じられるわけもないし、眠気は感じても慣れない体温に落ち着かなかった。
「皓様は…、なぜ?」
「…時々、気分が高ぶったまま収まらなくなる。だが、じきに落ち着く」
けれど、その前に夜が明けてしまうような気がした。
皓の手は、相変わらず一定のリズムでぼん、ぽん、と俺の頭を静かに撫でていた。
それはまるで俺を寝かしつけるようで、自分自身が眠りたがっているようだった。
「どうしたら、眠れますか?」
皓が眠ってくれないと俺も安心して眠れない。
「‥さあ、
光がキスしてくれたら眠れるかもね」
他愛ない冗談のような言葉だった。皓からは、俺が部屋に来たときのような、強引な気配はもう感じなかった。
だからだろうか。それとも単に俺が寝ぼけていたのか。すぐ傍にある皓の白い頬に、自分の唇を押し当てた。
「‥ひかる、」
皓は呆然と瞬きした後、突然抱き潰すような強い力で俺を押さえつけた。
「いっ!?」
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