春夏秋冬
第6章 台風
「けれど、ご自分で行かれたのですね」
「そ。現地は全然安全じゃないのにさ。でも、だから現地の人間は安心するんだよね」
「そういうものでしょうか…、」
「うん。
やっぱりさ、えらい人が出向いて行動すると現場は盛り上がるよ。
それに、自分達は見捨てられてないって安心する。そうすると、行動も理性的になるし、その後の復旧も早い。
皓様はよく分かってる…、」
潔様は、皓様のことを優しい声で誉めるけど、なんだか本当に顔色がよくない。
この人も、本当に働き詰めのようだった。
「潔様、あんこ零れてる…、」
握った最中から、中身の餡が零れていた。
潔様は多分疲れ過ぎると、ひたすら甘い物を食べ続ける癖がある。
「良くできた領主だよ、彼は。
だけど、自分にも俺にも厳しすぎるんだよ。誰かさ、別の人を派遣すればよかったんだ。
向こうで皓が死にかけてたらどうしよう………、」
「潔様っ、
きっと皓様は大丈夫だから、潔様も少し寝た方がいい、」
完全に視点と語尾の怪しくなってきた潔様から、喉に詰まらせる前最中を取り上げた。
潔様はそのまま半分倒れるようにして眠りについた。たまたま通りかかった使用人さん達に日差しの強い東屋から座敷に運んでもらった。
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