春夏秋冬
第1章 春
鉛のように重い腕を持ち上げて寝室のドアをノックすれば、中から低く響く声に呼ばれた。
「入っておいで」
寝室に入れば皓は大きなベッドの上で物憂げに横になっていた。
襦袢から投げ出された手足は長くて白い。
「…一本道で迷子にでもなった?」
「いいえ‥」
低く響く声は美しいのかもしれないけど、抑揚の少ない喋り方が不気味で怖かった。
部屋の家具は重厚感のある黒で統一され、ベッドのシーツさえ地獄の底のように真っ黒だった。
「まあ、いい。おいで」
行きたくない。
傍に近寄りたくない。でも、行かなきゃいけない。 夜さえ我慢すれば、皓は昼間は仕事に出て屋敷にはいない。夜だけ、今だけの我慢…。
そう心の中で繰り返してベッドの傍に立つと、皓は呆れたように溜め息をついた。
「ベッドに入れ。
立ち話をしに呼んだ訳じゃない」
いやだ…、でも逆らえない。
この男のすることに逆らってはいけない。それだけを言われてここに連れてこられた。
「はい」
足が、震えた。
だけど、転ばないように、せめてこれ以上みっともなくないように、何でもない振りをしてベッドに上がった。
皓は無言で俺を抱き寄せて、ベッドに寝かせる。
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