春夏秋冬
春夏秋冬
成人向
発行者:ほおずき
価格:章別決済
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ジャンル:恋愛
シリーズ:春夏秋冬

公開開始日:2012/02/27
最終更新日:2013/07/21 19:34

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春夏秋冬 第2章 桜
「…ごめんなさい」


「謝らなくていい。お帰り」


「はい…」


光の退院には3日かかった。
俺は仕事で迎えに行けず、またも潔が病院から連れて帰ってきた。


仕事から帰るなり光の部屋に行けば、彼はベットの上で大人しく本を広げていた。これも入院中に潔が差し入れた流行りの小説だ。


俺を見て、光は小さな頭をぺこっと下げた。光が謝ることは何もない。それどころか俺には人を責める資格もなかった。

俺が誰より光を気にしてなくてはならなかったのに。あの夜、女と過ごしている暇があるなら屋敷に電話一本かけるんだった。



「食事、少し食べられるようにならないとな」


「…はい」


光が食事をしない原因は俺にある。ベットに腰かけただけで、光の瞳は不安気に揺れたけど、あえて気づかない振りをした。


「何か食べたいものはあるか?何か欲しいものは?」


「…庭に、出ても?」


いいえ、と素っ気なく首を振られるだろうと思っていると、光は躊躇いながらも俺の顔を見つめ返した。



「庭?」


「桜の花が咲いてるって潔様が」



「ああ、満開だよ。見に行くか?」


「はい」


光が何かに興味を示したのはこれが初めてだった。しかし、春の夜は寒い。光には外套を何も用意していなかった。


俺が着ていた羽織を肩にかけてやると、また困った顔する。


「着て」


「え、」


「その薄着で外に出るとまた風邪が振り返す。見に行くんだろう?」


「…はい」


困った顔をしながらも光はモゾモゾと俺の羽織を着こんだ。

濃紺の羽織は光の白い肌に映えたが、痩せた体には随分重そうに見えた。



「おいで」



「……………歩けます」



ほとんど無意識だった。
幼児にするように両腕を差し出していた。


「…そうだな」


抱っこしてやりたくなるくらい頼りなかったのだ。痩せた手足があまりに細かったから無意識だった。


光はベッドから降りると俺の隣に並んだ。
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