春夏秋冬
第8章 柊
光は猫の子のように丸まって俺の腕の中に収まる。寝るときの暖房を嫌う癖に、寒いらしく俺の胸元に顔をうずめて、頭から布団を被る。
俺としても湯たんぽを抱えているようで、暖かいからいいんだけど。
「ひかる、もう休む?」
「ねむい、です‥」
最近の光は忙しい。
週3で家庭教師が来ているし、花を習いにも行かせてる。
光のことは、俺が生涯面倒を見るつもりでいる。外で働かせようとは、一切思っていない。
だけど、教養の一つとして勉学や芸事は出来て困ることはないだろう。
潔や雪も光に家庭教師をつけ、外に華道を習いに行くことは賛成した。日中の光の様子を俺より知っている分、光に何かさせては、と思っていたようだ。
当の光はと言うと、文句も言わずに両方とも熱心にやっている。 嫌がるようなら、強制するつもりはなかったけど、ほっとした。
光は14で一般教育を終えて以来、机に向かって勉強する事はなかったようだが、家庭教師は渇いたスポンジに水を吸わせるようだと褒めていた。予習、復習にも余念がなく、解らなくなると、ノート持参で潔を探しているらしい。
羨ましいな、と思う。
俺も偶には、光の勉強を見てあげたりしたい。
俺が拗ねると、潔はまるで子育てだと笑う。
まあ、そういう面もなくはないだろう。実際に歳は12、3も離れているし。光はまだ、いろんな意味で未成熟だ。その成長をそばで見守りたいと思ってる。
だけどなにぶん、自分に時間がない。
俺に出来ることと言えば、光の活けた花を一緒に鑑賞するくらいだ。
光の身体を抱き寄せて、布団を掛け直すと、もぞもぞと身じろいで、ぴたっとくっ付いてくる。
誘ってるのかと一瞬期待するけど、顔はもう半分寝てる。
やっぱり光はお子様だ。
あまり無防備でいられると、俺の方がつらいんだけど。
光を連れてきたのが、4月だった。
あの頃は泣いて拒絶するばかりで、身体を壊したり、ふさぎ込んだりを繰り返していた。
しかし、ようやく気持ちが通じてきたと思えば、台風到来で後始末に奔走し、結局半月に渡って光の顔も見えない生活を強いられた。
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