雪天使~お前に捧ぐカノン~
第7章 act,6:コンプレックス
「この野郎!! ぶっ殺してやる!!!」
スモールは闘牛の如く頭を突き出して、ロードに突進してきた。
「やってみろよこのノミ野郎」
静かに言って口端を上げるとロードは、身軽にヒョイとスモールの突進を除けるや否や、人工水路側へと背を向けたままポンと足で蹴りやった。
あっと一声上げたかと思うと、たちまちスモールはその浅い水路にドシャッと落下した。
「おーおー! ネズミと間違われてカラスに持ってかれねぇようになおチビちゃん!」
上からロードは余裕気味に声を掛けると、背を向け片手を上げて見せながら歩き去ってしまった。
「クソッ!!」
その後ろ姿を憎々しげに睨み見送っていたスモールだったが、一言叫んで水面に拳を叩き付けた。
「カア」
この一声に恐る恐るその方を見ると、一羽のカラスが水路の上からスモールを見ていた。その光景が先程のロードの言葉と重なりカッとなるスモール。
「失せやがれ! 人をなめてんじゃねぇぞ!!」
怒鳴りながらスモールはカラスに向かって浅い水を掻き掛けた。派手な羽音を立てながらカラスは飛び去って行く。苦々しくその姿を見上げながら、スモールは濡れた体でゆっくりと立ち上がった。
「ロードの野郎……絶対許さねぇ……」
悔しさの余り、スモールは涙が次々と零れた。
未熟児のせいで未だに年相応の背丈にも成長出来ず、自分より年上の少女を見ると見知らぬ母を思い浮かべた。
ロードはスモールの理想だった。カノンと共に暮らすロード。もし母が生きていれば、自分もあのような暮らしをしていたのかも知れなかったのだ。だからスモールはロードに嫉妬していた。でもその事を悟られたくはなかった。それがいつしか彼を敵視するようになっていた。
エリートはそんなスモールの心情に気付いていた。
チルドレンリーダーからギャングトップに昇格した今、エリートからすれば正直この小柄で無力なスモールは、今見る限りではとても将来的にも価値ある手先に成長する見込みは皆無だった。
だが何故かエリートは、そうでしかない無価値なスモールを放っておけずにいた。本来なら無駄でしかない下っ端は、兵力にならない以上見捨てられる。グループからも見放すのだが。
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