雪天使~お前に捧ぐカノン~
第7章 act,6:コンプレックス
「体洗った後、街まで行ってリサイクルBOXからちょっと洒落た服を何枚か貰ってこよう……」
一般住宅地の方に行くと、市民向けの繁華街が点在する。
そこの通りにはリサイクルBOXという、手紙投函ポストを三回りも大きくした様なBOXが幾つかあり、BOXの色によって種類分けされている。住人が要らなくなったがまだ使用出来る衣類や書物、玩具等をそのBOXの上から投函するというシステムが存在している。
そして下の引き開き型の開口部から、同じくそれらを再利用したがる市民達が自由に取り出して持ち帰る事が出来るというエコシステムだ。
ちなみにそれらを個人勝手に売買目的に利用する事は禁止されていて、きちんと管理人が側に立っている。
もし必要以上にごっそり持って行く奴はそういった違法行為と見なされ、その管理人が持っているデータシステムという手帳ぐらいのサイズの機械で顔写真や指紋、特徴をチェックされ以後利用不可とされる。だからせめて一人二、三品までとも決まっていた。
しかしここスラムの住人のほとんどは、近所のゴミ捨て場や長い年月一ヵ所に集中して廃棄され続け埋もれた土地、通称ゴミ山で衣類を得ている。その方が近場なので余計な体力を使用して無駄にエネルギーを費やす必要もないし、スラムの人間の小汚い外見は一目瞭然なので差別の的となり、嫌な思いをさせられたりもするからだ。
カノンも今までそうしていた。だがもう今日からは違う。シャルギエルの一言は、カノンに女としての身だしなみやお洒落を目覚めさせるには十分だった。
今までは滅多に体を清めるなんて事はしなかったが、今後は極力毎日それを続ける事を彼女は決意した。
必要以上にタオルで裸体になった肌をお湯に浸し擦る。ボロボロと垢が噴き出し、タオルもあっと言う間に黒く汚れた。それを今まではさほど気にした事はなかったが、今日改めてこの光景を再確認したカノンは恥を覚え顔を赤らめる。
“不潔な女は恥だ” この言葉がいつしか彼女の脳裏に植え込まれた。
小銭を得たら石鹸を買おう。カノンはそう心の中で固く誓った。
男にも関わらず常に彼を中心に身に纏う物までが、気品溢れるいい香りに包まれていたシャルギエルを思い出しながら…。
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