雪天使~お前に捧ぐカノン~
第4章 act,3:オーファン
「さっきお前……自分は捨て子で、捨て子はその場の便宜だけでその時に合った単語を名付けられるって言ったよな。だがお前の名前には美しい響きの意味がちゃんと含まれてるじゃねぇか。正直俺がお前の名を聞いた時率直に思い出したのは、“パッヘルベルのカノン”だ。お前の名を口にする度、俺の脳裏でついその曲が無意識に流れてくる」
彼の言葉が終わると同時に、はと気付くとカノンは驚愕の表情から次第にキラキラと輝く様な満面な笑顔を見せると共に、ポロポロと幾つもの大粒の涙を零し始めた。
「え!? なっ! 何だよ!? 頼むから笑いながら泣くな! 超怖えっっ!!」
シャルギエルが驚いて立ち上がった途端、カノンが彼に飛びついてきた。
「え!? わっ! な……っっ!!」
カノンを思わず抱きとめたまま、足元の一斗缶を蹴飛ばして尻餅をつくや否や、自分に寄り掛かる彼女を支えきれずにそのまま煉瓦敷きの地面に共に倒れ込んだ。
「いつつつ……っってぇーー……おいコラ。一体何のつもりだいきなり……」
「私の名前の意味を今まで出会った人間の中で言い当ててくれた人はあんたが初めてよシャルギエル!! ええそうよ! だから私はこの自分の名前が大好きなの……!! 自慢の名前よ!!」
心から喜び純粋にはしゃぎながら言うと、無邪気にカノンは彼を抱き締めた。
「そ、そうかよ……。そいつは何よりだぜ……」
そう呟きつつ、シャルギエルは自分の上にいる彼女の赤い巻き毛の頭に、そっと片手を置いた。
こいつはまだ十三のガキじゃねえか。子供相手に俺は……どうかしている……。
密かに思いながらも、結局たった二歳年下なだけ。シャルギエルが大袈裟に年齢差別を意識しすぎているだけで、根底では年代の身近さは感じていた。
だからこそカノンを一人の“女性(女子)”と異性視して意識せざるを得ないのだろう。
シャルギエルは彼女の髪を撫でる手をそのまま肩に回すと、自分の上に重なる様にいる少女を片手でギュッと抱き締め、小さく口の中で呟いた。
「……カノン……」
自分の胸の鼓動と、その呟きのどちらが彼女の耳に聞こえているか等、もうこの際考えずに……。
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