雪天使~お前に捧ぐカノン~
第4章 act,3:オーファン
信じがたい話の数々に思わず疑わずにはいられなかったが、今自分が目にしているのは明らかにカノンとロードが住むこの家が、例えマシな方とは言っても貧しすぎる事だ。天井は崩れてるし、まるで廃墟か物置小屋だ。
半信半疑の彼の気持ちを知る由も無く、カノンは「ほら」と漸くコーヒーを差し出した。持ち手は付いているが、その金属系のカップを直接手に触れても大丈夫なぐらい、丁度良い温度になっている。
「サンクス」
彼女からカップを受け取って、コーヒーの香りに誘われる様に一口、口にする。そしてすぐに眉間に軽く皺を寄せて呟いた。
「う……薄……っ」
それに対してすかさずロードのツッコミの声が掛かる。
「それがここらじゃたりめぇだ。いい加減事態を把握しろよな。学校行ってんだろう。予測・推測も出来ねぇのか箱入りお坊ちゃんは。このクソ寒い中白湯しか飲まされねえよかマシだろ。味があるだけ文句言うな」
……無学の十歳の男児に至極当然な文句を言われ、確かにもうそろそろ慣れるべきの恥を覚えるべき頃合だ。
だがドラム缶に薪をくべて火の勢いを作るロードの様子を見て、やはり内心驚異を抱かずにはいられない。暖炉無しに直接部屋の中にドラム缶で火を焚くその光景が信じられなかったが、丁度崩れた天井の下に設置してあるのもあって一酸化炭素中毒の恐れはなさそうだ。
ドラム缶の焚き火はシャルギエルにとって、天井に穴が開いていても部屋内は十分暖房効果抜群に思えるぐらいだった。しかし薄着姿のカノンにとってはまだ暖かさが足りないらしくて、ブルリと震えてベッドから布を取り上げて羽織る姿に気付く。
「あっつ……!」
シャルギエルは着ていたロングダウンコートを、少し顔を熱らせながら脱ぐや否や立ち上がり、カノンの肩に少し強引に掛けてやる。
「そんだけ火ィ焚きゃ俺の上等な服装にとっちゃあ暑いぐらいでのぼせちまいそうだ。代わりにお前着てろ」
それからコートの上から、首元に掛けていたシルバー色のファーマフラーをカノンに羽織ったコートから抜き取ると、ロードに投げやる。
「お前はそれでも巻いてろ」
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