雪天使~お前に捧ぐカノン~
第4章 act,3:オーファン
そんな彼を他所にカノンに言われたロードは、生意気な態度でシャルギエルの前へと歩み寄ると、澄ました顔して親指を自分の胸に当てながら気取って言った。
「姉ちゃんが言うなら仕方ねえな……じゃ、これから分かんねぇ事はオイラ達二人に聞けよ」
自分の前にいる小生意気な男児からそっぽ向きながら、うるさそうに耳の穴を指でかっぽじってシャルギエルは少し不愉快そうに一言吐き捨てる。
「チ……分かったよ、チビガキが」
「新入りの分際でチビガキって言うな!」
すかさずロードは自分より年上で長身の彼の尻をもう一蹴りお見舞いした。
「てんめえ、あんま調子こいて俺のケツを馬にするが如くにポコポコ蹴り入れてんじゃねぇぞコラ! 新入りでも年はこっちが上だこのクソガキが!」
シャルギエルはロードにヘッドロックを掛けると、脳天に拳をグリグリ押し付けた。
「うわてててて!! わっ! 分かった! ごめんなさい! もうしねえから!!」
腕の中でジタバタもがくロードを解放すると、ちょっぴり涙目になったロードが渋々と頭に手を当てながら、ムゥッと口を尖らせて彼を見上げる。そんなロードにニッと笑って見せると、シャルギエルは彼の頭をゴシゴシと強引に撫で回してやった。そして改めて部屋中を見回す。
「まぁでも……ベッド、だよな? が、あって……って事は、ここにお前ら兄弟は住んでんだな?」
「うんそうよ。何よ今更」
あっけらかんと答えるカノン。
……やっぱりどうしても、これがこいつ等の家なのか……。
疑心から確信へと変えると、ドアの向かい側の壁に窓らしい造りがあるのに改めて気付く。ガラスではなく、両開きの木の戸口が取り付けられている。
近付いて戸口に手を当てる。押し開きになってる様だ。恐る恐る押し開いて見ると、いっぱいに開けた両ドア枠からほんの数センチだけ離れた程度の間近の距離に、コンクリートの壁が立ち塞がっていた。
路地というより建物同士か壁の隙間といった感じで、その壁を見上げると約三階建てぐらいの高さはあった。
それがただの壁なのか何かの建物なのかまでは気にせずに、今度は下を見ると右奥がこの部屋に合わせた長さでどん詰まりになっている。そこにはネズミをくわえた猫が、目を細めて彼を見上げていた。
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