雪天使~お前に捧ぐカノン~
第3章 act,2:出会い
「ハロウィンだから何だってんだよ。ますます雪とは関係ねえし」
「いや、クリスマスってあんたが言うから、イベント繋がりで言ってみただけだよ」
まるで“子供心が分かってねぇな”と言わんばかりにぶすくされた口調でロードは反論する。
「ハロウィン……そっか。それもあるのかもねぇ……あんたがやって来たのも」
ふと空を見上げつつ、白い息を吐きながらそれとなくカノンは落ち着いた口調で述べた。
「は? 俺? 何だモンスターとでも言いてえとか?」
「ふふ……その逆。天使だよ」
「……あ? 天使? まさかこの俺がか? 俺まだ死んじゃいねぇぞ」
カノンの言葉にますますキョトンとするシャルギエルは、自分固有の判断で“天使=天国=死”と繋げて考えたらしい。安易なまでに単純な発想である。
彼の言葉にクスクス笑い出すカノン。
「金持ちは学があるからてっきり分かってるとばかり思ってたら、本当に知らないんだね。まあ簡単に聖書に登場する程オーソドックスじゃないから、よっぽど神学に精通してなきゃ分かんないかな。自分の名前の意味」
静かに言うと、彼女は再び歩き出す。
既にもう僅かながら雪が積もり始めて薄っすら白くなった地面が、彼女の足跡を刻んでゆく。
「俺の名前の意味……? ただ……冬の雪の日に生まれたからとしかお袋からは聞かされちゃいねぇけど」
彼女の後を追って地を蹴りカノンの横に並んで歩き出すロードを確認しながら、彼も後に続いて歩を進める。
「へぇ……やっぱり冬生まれなんだね。あのね、その名前の意味は……雪の天使の名前なんだ。雪を司る天使様。それがその名前なのよ。――“シャルギエル”」
最後の彼の名を口にすると同時に、クルリと振り返ってカノンは彼を見据えた。
突然呼び捨てで呼ばれ、ドキリとする。カノンのライトブラウンの瞳が真っ直ぐ彼を見詰める。彼女の表情はとても穏やかだった。思わずその瞳に吸い込まれそうになる。まるで陶器の様な、美しい瞳だった。
「へ、ぇ……そうか。そいつは、初耳だぜ……」
シャルギエルはそう言いながら、予想外に高鳴る鼓動を何とか落ち着かせようとする。
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