雪天使~お前に捧ぐカノン~
第21章 act,20:インビテーション
……ヤツだ。忍鷹はシャルギエルを見遣ると、彼も気付いて目配せしながら頷く。
主のジャンセン卿が挨拶の言葉の後に、壇上を一段目まで降りるとその例の男を隣に呼び寄せた。その男は厳かに歩み寄り、シャルギエルの父親の横に並ぶ。
するとジャンセン卿は、自信満々にその男を来客者全員に紹介し、それまでの経緯や彼の思想を語って聞かせた。来客全員から、感嘆の声が上がる。
それに対して、謙遜気味にその男は手を挙げながら応じ、満面の笑顔を振り撒いた。
Mr.ダグラス・マックィーン。ジャンセン卿が総裁として統括している内の一つ、総合大学病院と取引している、臓器提供運搬会社の社長で業界きってのやり手だと言う事だった。
……そりゃあ業界きってのやり手だろうな。とシャルギエルと忍鷹は腹の中で皮肉る。
この場で見る限りでは、とても写真の時の冷厳な表情とはまるで違い、この上ない善人のような仏の顔をしていた。
…こっちもこっちで、こうも立派に表情が変わるとは。さすがは悪人だな。これこそ草食動物の皮を被ったケダモノってヤツか。忍鷹はマックィーンを見遣りながら嘲笑を浮かべる。
やがてある程度の前置きが終わると、今年は令嬢のミレイナが掛け声を担当して立ち上がり、手に持ったグラスを天高く掲げた。
「ハッピーメリークリスマス!!」
彼女の声に応え、来客全員も声を揃えてグラスを掲げた。そして各々自由に入り乱れ会場は賑わいを見せ始める。来客達は豪勢な饗宴に悦楽し、舌鼓を打った。
食事をしながら会話をする者。主催者のジャンセン卿に挨拶に来る者。その妻であるミセス・ジャンセンにも挨拶に来る婦人達。うら若き少年達は令嬢ミレイナに、一丁前にジェントルマンを気取った慇懃な挨拶で対応している。
シャルギエルはと言うと、途端に長い足を組み肘置きに頬杖を突いた姿勢で、招待客の跳梁振りに煩わしく思いながら澄ました表情で、パーティーの様子を視線だけでじっくり見回す。
そんな彼の心情も知らずに来客達は、シャルギエルの機嫌取りの挨拶をしに来るのを隔意たる態度ながら、慣れた素振りで適当に彼はあしらっていく。
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