雪天使~お前に捧ぐカノン~
第19章 act,18:パシフィックタイム
それを溜め息交じりで見届けながら、「それにしても…」と忍鷹は一人残ったリビングで呟くとチラリと横目でテーブルの中央を見遣った。
そこには液体チョコレートとチーズが、それぞれの自動フォンデュ機によって吸い上げられては滝の様に永遠と流れ続けていて、周りを囲むようにしてカットフルーツが並べられてある。
甘ったるい香りに満ちすぎたここは、胸焼けがしてくる。
すっかり辟易した忍鷹は、それを何とか誤魔化そうと丸ごとフルーツが盛られているガラス器におもむろに手を伸ばした。
そしてスターフルーツを掴むと丸ごとのまま豪快に齧り付く。その様はこのハンサムな男にして実にワイルドで男らしい。口の中に爽やかでスッキリとした味が広がる。続いて更に、ミントティーを啜る忍鷹であった。
「……おい…もう夜になったぞ……。一体いつになったらあの娘の改善とやらは終わるんだ……」
「ああ…俺もまさかここまで時間が掛かるたぁ思いもしなかった…。フランクいわく女は何かと時間が掛かるそうだ……」
忍鷹とシャルギエルは娯楽ルームでビリヤードで暇潰しをしていたが、半分くたびれた感じに時間を持て余していた。いくら暇潰しをしようとしても、さすがに連続はきつい。シャルギエルに至ってはもう退屈さに横で忍鷹の番の時は、ダーツをプレイしているぐらいだ。
その時内線が鳴った。
シャルギエルは壁掛けの電話の受話器を取り上げる。
「何だ」
“お坊ちゃま。夕食はいかがなさいましょう”
「夕食、かぁ……。そうだな。三人前をこっちに運んでくれ」
“かしこまりました”
受話器を置く彼に、忍鷹はあくまでも冷静に訊ねる。
「……いいのか。御馳走になって」
「構わんさ。遅くまで引き止めちまってんだ。しかも銀紫(ぎんし)がプリントアウトしてくれている間に、こっちもバスタイムに興じる事が出来て助かっている。ほんの礼だ。気にせずうちのシェフの味を味わっていってくれ」
シャルギエルは矢をポイとダーツに投げると、大きく伸びをした。と、同時に携帯電話が鳴る。
「今度は何だ……。ん? 公衆? ――ハロー?」
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