雪天使~お前に捧ぐカノン~
第19章 act,18:パシフィックタイム
「……一応あいつを口説く怖い物知らずな物好きもいたもんだな……」
「しかも“オッシー様”とか言ってなかった? アースン……」
シャルギエルは口元を引き攣らせ、カノンは忍鷹をしみじみと眺める中、今の出来事を無理矢理見なかった事にしようと脳裏から懸命に排除しながら、忍鷹は低い声で吐き捨て階段を下り始める。
「早く行くぞ」
「あ、現実逃避かこのヤロー。この色男め」
「見なかった事にもしたくもなるさ……」
忍鷹の背中を追い掛けながら、シャルギエルとカノンは言った……。
シャルギエル私邸にて。
彼はパソコンでの写真の処理を忍鷹に任せて、私邸に呼び寄せた自分専属のカリスマ美容師フランクに、お風呂の後の髪の手入れをさせていた。
「あんたいつもこうしてもらってんの?」
覗き込んで来るカノンに、シャンプー台に頭を委ねるシャルギエルは頷く。
「こうするのが我が家の常套手段だ。体ぐらいは自分で洗うけどな」
「はぁ~……。まるで王子様だねぇ」 感心するカノン。
「王子様みたいなもんだよ。日々の生活は王族とかと対して変わらないんじゃないかな。ただ爵位と家の広さが違うだけで。ですよね。お坊ちゃま」
フランクはシャルギエルの髪を弄りながら、彼を間に挟んで向かいに立っているカノンに言ってから、シャルギエルに同意を求める。
「ああ。フランクはな。家族や他の使用人とは違って気楽に付き合い易い奴でな。俺より十歳も年上だが気軽にプライベートな話もし易い。その辺弁えてくれていて家族の前と俺個人だけの前じゃ、意識や気持ちの切り替えも上手い。ちょっとした兄貴みたいなもんさ」
「おやおや。そんなに私なんかを褒めちぎったりしてどうしたんですか? やっぱりお坊ちゃまでもさすがに彼女の前だといい人を演じたくなるもんなんですねぇ」
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