雪天使~お前に捧ぐカノン~
第14章 act,13:不機嫌な愛の我がままな形
「……――本気にならないと言った事が、俺のプライドは許さん」
「……それって……」
カノンはすぐに彼が何を言おうとしているのか理解した。暫しの沈黙。の後、またカノンはゆっくりと湯浴みをしてすっかり全身の泡を洗い流し、最後に頭の冷えを取り除く為に頭から手桶で二回湯をそっと掛けた。
そしてテーブルに置いてあるバスタオルに手を伸ばすと、上半身の左脇がすぐ側に座っているシャルギエルに触れた。ビクリとするカノン。何せ片手で胸を隠し極力背を向けたままタオルに手を伸ばしたので、彼の位置がよく把握出来なかったのだ。
しかしシャルギエルは腕を組んだまま微動だにしない。それに気付き、カノンも敢えて冷静を装って何事もないように、タオルを引き寄せ体に巻き付けた。それから今度は小さめのタオルを取って、濡れている髪を拭き上げる。
そして漸く再び静かに口を開いた。
「あんたにマジ惚れしろって……事かい……?」
「知るか。そんな事、お前自身が一番よく分かっているだろう。そもそも俺に対してどうあるんだ」
「好、好きだよ」
「それはライクかラブか」
シャルギエルの口調はあくまで静かに低い声で落ち着いている。
「……ラ、ラブ……」
カノンは口にすると同時に、それを認識するように鼓動が大きく一つ高鳴った。
「だったら貫けばいいではないか。何だその身分等と言うのは。世界が違うと言うのは。実に不愉快だその愚劣極まりない思考。今時陳腐でしかない」
まるで他人事の様に少し不快さを剥き出して、シャルギエルは言葉を吐き捨てた。
「だってもし本気になって、でもあんたの家族に当然仲を反対されたりしたらって! しかも所詮スラムの女なんかあんたが本気になる訳なく、飽きたら捨てられて結局分相応のお嬢様に落ち着く時が来るんじゃないかって……!!」
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