雪天使~お前に捧ぐカノン~
第14章 act,13:不機嫌な愛の我がままな形
途端、前回の出来事や昨日のカノンへの嫉妬からくる苛立ち、そしてとどめのロードのきついアドバイス等で、一気にシャルギエルは目が覚め、頭が冴え渡った。
時計を見ると一時前だった。布越しにカノンの全裸のシルエットを見詰める。おそらく体を洗っているのだろう。シルエットはしきりに体や腕を擦っていた。
シャルギエルはその様子を睨みつけている内に、再度また苛立ち始める。そしてついに苛々が頂点に達した彼は、もう後先考えずに同じベッドの横で眠るロードを跨いでベッドから降り立つ。そして堂々と彼女の元へと大股で歩み寄ったかと思うと、バッと大きく布を払って中へと入って行った。
突然のまたしてもシャルギエルの登場に、カノンはハッと驚きの余り硬直する。そんなカノンの顔を仁王立ちでグッと顎を引いて睨み付けるシャルギエル。
彼女は片膝を付き大金ダライに向かって体を洗っていたその全身は、泡に塗れていた。暫くの間の後、漸く我に返ったカノンが声を荒げた。
「一体いつまで人の体ガン見してんだい! しかも突然入ってきて一度ならずも二度までも! どう責任とってくれんのさ!」
カノンは両手でまだ幼い小ぶりの胸元をそれでも女のデリカシーとして必死に隠しながら、顔を真っ赤にする。
「責任だと? この前もお前同じ事言ったよな」
前回と違って、シャルギエルは怯む事無く彼女に歩み寄ると、一番近い場所にある腰掛に座った。カノンはそんな大胆な彼の行動に動揺して、前部を相変わらずひた隠しながらシャルギエルへ背を向ける。
「なっ! 何だい一体! 確かに言ったさ! それがどうかしたのかい!」
「……――この間の夜の続きだ」
低い声で彼は、カノンの背中に向かって静かに口を割った。彼特有の漆黒の長髪がサラリと肩から滑り落ちる。
「え?」
「思い出せ。よぅくな。あの日あの夜あの時に、お前がこの俺に何を言ったのか、僅かも漏らす事無く再びはっきり声に出して繰り返せ」
今のシャルギエルは僅かばかり言動に本来の高雅さが戻っていた。貴族としてのプライドが今の彼をそうさせていた。そこには不良ぶった彼ではなく、貴公子としてのシャルギエルがいた。
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