雪天使~お前に捧ぐカノン~
第11章 act,10:インパルス ―衝撃―
「ああしかしびっくりしたぜ……。女の裸見ちまったのはお前が初めてだ」
改めて乱れてしまった腰まで長い黒髪を整えながら言う。
「あたいこそ見られたのはあんたが初めてだ。ロードは別にしてね。責任持ちなよ」
「責任? 何だお前の男になれってか?」
「見直したろ? ガキじゃないってさ」
そう言ってカノンは、後ろ髪を片手で押し上げてウィンクして見せる。
「ほぅ。つまりやっぱりお前、この俺にマジ惚れしたって事だな?」
「だったらどうする?」
火に掛けた鍋の中のミルクを取り上げて、マグカップに注ぐカノン。
「え?」
ドキリとするシャルギエル。少しずつ照れと羞恥さでパニくってくる。
「……でも無理ね。あたいの一方通行で終わるさこの恋は。そもそも住む世界の違う者同士なんだからさ。あたいの様な虫けらが、あんたの気高さに付いて行けやしない。だから、極力本気にならないように、ちゃんと自分に言い聞かせてそれ以上心を燃やさないように留めているのさ。安心しな」
「……マジでか?」
動揺するシャルギエルに、カノンはふと大人っぽい表情を見せて答える。
「生まれながらにして傷付きまくった心だ。世界の違う奴にマジ恋してこれ以上心をボロつかせたら、もう生きてけなくなりそうで怖いんだよ。ホントにあんたはあたいが初めて出会った、いい男さ」
「……そ……そうか……」
思いもよらない彼女からの告白に、正直寡黙に陥ったシャルギエルの心はここにあらずだった。フラリと立ち上がると、「おやすみ」と呟いてロードが眠るベッドへ昏倒しそうになりながらフラフラと歩いて行った。
「……おやすみ」
静かにカノンは答えて、ホットミルクを口に含んだ。
カノンは、シャルギエルは自分の言葉に安心して素っ気無くベッドに戻ったものと解釈して、ふと気を楽にした。自分の想いを伝えたら、心なしか肩の荷が降りた気がした。そう。これでいい。所詮叶わぬ恋。本気になってドツボにはまってからじゃあ、もう抜けられなくなっちまう。それならいっそ、今の内に告白して振られておいた方が手遅れにならずに済むってもんさ……。
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