雪天使~お前に捧ぐカノン~
第11章 act,10:インパルス ―衝撃―
咳き込みむせ返るシャルギエル。違う。そんなつもりじゃなかった。まさか、お前が湯浴み中だったなんて、知らなかったんだ! そう言いたくてもむせてばかりで声も言葉も出ずに、ただもがくように片手で無造作に宙を払い、長髪を振り乱しながら顔を背けて必死に空気を求める。
そして漸く落ち着いて恐る恐るカノンを振り返ると、まだ全裸を晒したまま突っ立っていた。
「タオルぐらい巻けよ!」
シャルギエルの言葉に我に返ったカノンも負けじと声を荒げる。
「先に勝手に入って来たのはそっちだろう! 何偉そうに命令してんだいこのスケベ!!」
お互い赤面してアタフタしつつも、カノンにボディースポンジを投げつけられて必死に大布の向こうに戻ろうと慌てふためくシャルギエル。しかし無情にも引っ掛けられただけの大布は、彼の上にバサリと落下し覆い被さった。
その間にもう既に全て洗い終えていたカノンは、大急ぎで全身をタオルで拭き上げ、服を着込む。もう下手にジタバタしても後の祭りと考えたシャルギエルは、その大布を頭から被ったままカノンが落ち着くのを中で大人しく待つ事にした。
「その……すまねぇ……咽喉が渇いて目が覚めちまったから……」
「……もういいよ。布取っても」
カノンに促がされ恐る恐る布から顔を出す。
艶やかな濡れた赤い巻き毛から水滴が滴っていた。まだ少し顔を赤らめつつも、タオルで残った髪の水滴をポンポンと当てる。そして気まずそうに目を泳がせながらもシャルギエルの目と何度か合わせる。
「あ……その、えっと……」
カノンがチラチラ目を合わせるので、何か言うべきなのかとシャルギエルは言葉に窮する。そして苦し紛れに先程の彼女の裸体を頭に浮かべる。白い肌。スレンダーな体。まだ成長の見込みのある小振りな……。
「Aサイズ?」
「よく見てたじゃないか!!」
次はカノンからタオルが飛んでくる。
「大丈夫だって! せいぜい女はBかCまで大きくなりゃあ丁度いいぐらいだからな。ホルスタイン並みの巨乳は男からして見りゃ魅力が半減しちまうからさ。気をつけろよ」
「今の状況で何下手なフォローしてんのさ! そんなのアドバイスにも何にもなんないよ!」
ここまで言って暫くの間の後、妙に滑稽になって二人でクスクス笑い出した。
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