生真面目な彼女
第1章 きっかけ
「な、何?」
こちらの声に答えることなく無言で見つめてくる瞳に、反射的に何処かに隠れてしまいたくなった。
(三神家の人たちと違って、うちは平々凡々なんだってばっ!!
残念な男前だろうが、逆立ちしても勝てないような顔のやつに見つめられるなんて、いたたまれなさ過ぎるっ!!)
「も、もしかして、全部分からない…とか?」
「…」
無理やり口を開いて問いかけるが、返事は返ってこない。
そのまま視線を外して机の表面を追う。
現実逃避と分かっていても、もう一度秋吉の視線に対峙しようなどとは思えない。
「っ!」
頬をなぞる指の感触にピクリと揺れてしまったのは仕方のないことだった。
頬だけでは飽き足らず、その指は輪郭をなぞっていく。
私はそれに微動だに出来ない。
「――」
秋吉が何かを言った。
しかし、固まってしまった私にはその言葉は入ってこなかった。
「―触らせて」
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