生真面目な彼女
第1章 きっかけ
「…こんにちは」
「…おう」
(き、気まずい…)
中学校の途中くらいから会って話すことなど数えるぐらいしかなくなっていたのだ。
こんな間近に秋吉の顔を見るなんてどれくらいぶりだろうか。
そんな事を考えつつ、机を挟んで秋吉の前に座った。
「大丈夫なの?」
ついつい声をかけてしまう。
外出禁止令が出てからもう1週間が経過しているのだ。
その間、辛うじて学校で女たちを侍らせてるぐらいだろう。
今までから比べたら、すごい差だ。
心なしか、秋吉の男前な顔が精彩に欠けているような気がした。
「あ?…ああ。まあ…」
うん。こりゃかなりきてます。
触らぬ神に祟りなしと言うし、それ以上突っ込む事を私はやめた。
「う、うん!協力するからちゃっちゃと遅れを取り戻しましょう!」
「ああ…」
「…」
いまいちやる気のない声に、がっくり肩を落としそうになった。
慌てて取り繕って、選別してきた教材を取り出した。
「どこら辺からやろうか?」
「…どこでも」
「…じゃあ、まずはこのプリントしてみてくれる?」
テンションの低さなどある程度予想済みだ。
どこら辺に躓いているのか知るために、わざわざ作ってきたプリントを差し出す。
素直に受け取った秋吉が、問題に取り掛かるのを見守る形で、プリントの上に置かれた手に視線を落とす。
…
……
………?
待てども手を動かさない秋吉に、視線を上に―つまり、秋吉の顔を覗きこむ形となった。
そこで私は固まる。
がっつりと私を見る秋吉の視線とぶつかってしまったからだ。
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