魔怪探偵『ユート』
第1章 第一章:始まり
けど、そんな物を付けるはずの女性どころか、人影ひとつも見当たらないのになぜその音が出てくるのか。
わからない、こんなの絶対おかしい。
唯は体験したこともない不快感と不気味さを感じ取り、足を早歩きへと変更した。
カツンカツンカツンカツンカツン・・・・・・
すると、例の足音までもが早歩きをすることを示すように歩数を変えた足音を響かせてくる。
唯「(なんなのよいったい!?)」
理解できない現象に次第に冷や汗を流し始める。
唯は遂には全力で走り出した。
カツンカツンカツンカツンカツンカツンカツンカツンカツンカツンカツンカツンカツンカツンカツンカツンカツンカツンカツンカツン―――――!!!!!
ハイヒールの音は乱暴な足取りと変わり、唯と同じように全速力で走っているかのような雰囲気を表し出す。
唯はもう無我夢中に走り出していた。
今までの日常とはかけ離れた現象が唐突に起こりだし、それが自分に降りかかっているのだという事実に恐怖を覚え始めていた。
唯「(来ないで! 来ないでよ!!)」
息を荒らげ、長いトンネルを延々と走り続ける。
でも、あと少しでこのトンネルから出られる。
トンネルを抜けた先は住宅街が立ち並んでいる場所に出るはずだ。
そうすれば、ただ一人この場に居るという状況から抜け出せるに違いない。
唯「(あと、少し・・・)」
今だ迫ってくるハイヒールの音を振り切るべく、唯はラストスパートを掛けるように速度を上げる。
そして、遂にトンネルから抜け出したのだ。
目の前には明かりの着いた住宅街が立ち並んだ十字路がすぐそこに近づいていた。
その光景に若干安堵し、トンネルの出口近くに建てられた電柱に寄りかかるように掴みかかる。
唯「ハァ・・・ハァ・・・ハァ・・・ハァ・・・!!」
さすがに疲れたらしく、息を整えつつ周りを見回した。
防犯灯が唯を照らすただ一つの灯となり、まるでスポットライトを浴びているかのような姿であったが、そんなことよりも唯は辺りに何者かが居ないか必死に探し出す。
だが、誰もいなかった。そればかりか先程までのハイヒールの音がいつの間にか消えていた。
唯「ハァ・・・ハァ・・・ハァ・・・アハハハ、ひょっとして、悪戯?」
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