魔怪探偵『ユート』
第2章 第二章:灰色のヒーロー
―――バタッ・・・
次には、パラパラと影が分解されていくかのように空中へと上がっていく。
唯もその様子を暫く呆然として眺めていたが、男がふと動き出したことにより、視線を男の方へと戻す。
?「過去にとり憑かれし哀れな思念よ・・・安らかに眠れ」
男は片手を顔の前に持っていき、祈るように手を添えた。
その姿が唯には神聖な物に見え、見とれていた。
こうして、数秒経ってから男は動き出し、ズボンのポケットから携帯を取り出した。
?「俺だ、今終わったところだ。約束の依頼料は後日振り込んでおいてくれ。あぁ、それとブツは完全に破壊したから残りカスの処理のために小さいドラム缶とセメントを用意しとけ。いいな?」
男は何やら大事な話をしているそうだが、唯は今までの事は一体何だったのかを知りたかった。
あの一人でに動き出したハイヒールは何か?
そっちが使っていた道具は一体なんなのか?
そして、お前は『何者』なのか?
唯「あのー・・・」
弱々しくも、唯は男に近づいて呼びかける。
抜けていた腰はもう治っており、いつの間にか普通に歩けるようになっていた。
?「・・・すまん、後でまた電話する」
男は此方を一見するや、携帯電話を切り、唯の方へと向き直る。
?「怪我はないか嬢ちゃん?」
唯「え、あ、はい・・・大丈夫です」
改めて見ると、少し怖い雰囲気を漂わせているが、言葉からして悪そうな人間ではなさそうだと唯は判断する。
?「先程まで見た光景は忘れたほうが良い。殆ど必要のないことだ」
唯「でも、貴方は一体何ものなのですか?」
?「なに、単なるミステリーな掃除屋兼探偵と思っておけばいいさ」
男は次第に表情を柔らかくし始め、口調もフランクな物へと変化していく。
唯「でも、さっきから見ていた事が信じられないです・・・あれはひょっとして夢か何かだったのかなって」
?「夢か・・・そう考えるのが一番いいかもしれない」
唯「あれってなんなんですか。幽霊? 化け物? はたまた未確認生物?」
?「ハハハ、未確認生物は少し大げさだな。だが前者の二つに近いものかもしれん」
唯は次第に調子を取り戻しつつあり、その対応にも軽く男は応じる。
落ち着きを取り戻してきているのだ。
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